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連載読みもの

「佐藤真の不在」との対話

5 前編

小林茂「わからないから撮る」

2019年9月15日 公開

ケンカを利用!? 「『阿賀に生きる』正念場シンポジウム」

山本 カメラを止める事件が起きてから制作がストップして、製作費が尽きかけたことがあったときに、今この二人はこういうケンカをしてるんだっていうのを公開討論したんですよね。

小林 そう。「『阿賀に生きる』正念場シンポジウム」っていって。大変著名な人をずらーっと並べて、佐藤さんがこれ撮りたいんだけど小林が言うこと聞かないって言って。僕は、それぞれラッシュ見せるの。

山本 俺の言い分はこうだと。

小林 「こういうのが撮れてるから、佐藤さんの現金(ゲンナマ)主義は駄目だって言って二人でけんかしてしまいました」と。そして二人して、「1年ぐらいで作るつもりでしたけどこういう状態なので、是非お金を、カンパを下さい」って言って。もうちょっと我慢していただきたいというお願いをしたんです。


「『阿賀に生きる』正念場シンポジウム」(撮影:村井勇)

山本 撮れてるものはあると。

小林 それで新潟の地元の日報にバーンと。

山本 新聞に載ったんですか。

小林 だって司会は新潟日報の記者だもん。そういうのも全部計算したんです。「新潟市内で『阿賀に生きる』正念場シンポジウム 制作危機」とかなんか書いてもらって。

山本 ははは。こんなふうに揉めてると。

小林 それでカンパを要請してると、ちゃんと送金先まで書いてもらって。

山本 そういうこともやったんですね。

小林 内部でやっていることを全部オープンにしていく。製作委員会ではラッシュ見たり、金の報告があったりしながら、後は朝方まで酒を飲む。誰一人としてスタッフ同士でなんかしゃべらない。みんな製作委員会の人たちに自分の鬱憤をぶちまけるわけです。

山本 愚痴を。

小林 みんな「わかるわかる」と言ってくれて、僕らスタッフはぐでーっとなって、翌朝、阿賀の家に戻る。

山本 それで3年間の製作費をなんとか工面したんですね。

小林 最後は仕上げる金がなくて1千万円の借金をしたのです。

山本 しかし佐藤さんは、3年間ケンカもしながら映画を作って、完成した後は小林さんと距離を置こうとされた。僕は小林さんのカメラとても好きだったので、佐藤さんによく、「小林さんとまたやんないんですか」って聞いたら、「小林のカメラはちょっと暑苦しいんだよねえ」と。でも、「その暑苦しさを冷ますのが俺の仕事かな」みたいなことを言ってましたね。

小林 散々だったんじゃないかな。僕は一緒に仕事をしたいと思ったけど、3年も同じ釜の飯を食ってあれだけやり合ってたら、佐藤さんは嫌になってたんだと思う。それに、ちがうキャメラマンともやってみたいという気持ちはわかりますよね。

構成:清田麻衣子 / 構成協力:西晶子(Regard)
(後編につづく)

【上映情報】
山形国際ドキュメンタリー映画祭
YIDFFネットワーク特別上映「やまがたと映画」
10月12日(土)
小林茂の師、柳澤寿男と、弟子、小林茂。師弟2人がそれぞれ40年の歳月を隔て、同じびわこ学園を舞台に描いた2作品を上映する。
会場:山形まなび館
12時半〜 柳澤寿男監督『夜明け前の子どもたち』上映
15時〜  小林茂監督『わたしの季節』上映
17時〜  トークショー(小林茂監督ほか)
入場無料

10月24日(木)
グローイングアップ映画祭 鶴川ショートムービーコンテスト2019プレイベント映画上映会『阿賀に生きる』
会場:和光大学ポプリホール鶴川 B2Fホール
17時半開場
18時開演
映画上映後トークイベントあり

一般:1,000円
中学生以下:500円
詳細はこちらまで。

(つづく)